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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)7556号 判決

原告 国

訴訟代理人 岩佐善己 外三名

被告 小野竹之助 外一〇名

主文

両事件について原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(申立)

原告指定代理人は左記の通りの判決と、その第四日について仮執行の宣言を求めた。

第一、被告小野竹之助は原告に対し

(一)  別紙第一物件目録記載の土地について昭和二六年一一月六日東京法務局文京出張所(当時は麹町出張所)受付第一六九九六号をもつてなした所有権取得登記の抹消手続をせよ。

(二)  別紙第二物件目録記載の建物を収去して右土地を明渡せ

(三)  金一七六万四七三八円およびこれに対する昭和三六年一〇月二二日から右支払ずみに至る迄年五分の割合による金員並びに同月一日から右土地の明渡ずみに至る迄一ケ月金三万七五三四円(四七銭)の割合による金員を支払え。

第二、小野七造は原告に対し右建物から退去して右土地を明渡せ。

第三、被告小野竹之助、同住宅金融公庫は右土地について昭和二八年四月一日東京法務局文京出張所(当時は麹町出張所)受付第四、五八二号をもつてなした第一順位の抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

第四、被告谷戸光公は原告に対し

(一)  別紙第三物准日録記載の土地について昭和二六年一一月一七日東京法務局文京出張所(当時は麹町出張所)受付第一七、五五四号をもつてされた所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。

(二)  別紙第四物件目録記載の建物を収去して右土地を明渡せ。

(三)  金三七万三、八四六円およびこれに対する昭和三六年一〇月二八日から右支払ずみに至る迄年五分の割合による金員並びに同月一日から右土地の明渡ずみに至るまで一ケ月金八、一二二円(九九銭)の割合による金員を支払え、

第五、原告に対し

(一)  被告谷戸操は、別紙第四物件目録記載の建物のうち一階西南隅の居室八、六六坪(別紙図面A)および同一階中央部の共用部分三、七七坪(同図面B)から、

(二)  同関上清は同一階東北側の居室三、五二坪(同図面C)および右共用部分から、

(三)  同速水修一は同一階東北隅の居室三、八坪(同図面D)および右共用部分から、

(四)  同保科正二郎は建物のうち二階西南隅の居室四、七五坪(同図面E)および同二階中央部の共用部分三、三八坪(同図面G)から、

(五)  同石川義夫は同二階西南側の居室三、五坪(同図面F)および二階の同共用部分から、

(六)  同金子満義は同二階東北側の居室三坪(同図面H)および二階の同共用部分から、

(七)  同萩原達雄は同二階東北隅の居室四、一二坪(同図面I)および二階の同共用部分から、

それぞれ退去して別紙第三物件目録記載の土地を明渡せ。

第六、訴訟費用は被告等の負担とする。

被告ら代理人は主文同旨の判決を求めた。

(主張)

第一、請求原因

(一)  別紙第一物件目録記載の土地(以下(イ)土地という)第三物件目録記載の土地(以下(ロ)土地という)はいずれも原告が所有していた。

(二)  被告小野竹之助は同第二物件目録記載の建物(以下(イ)建物という)を所有して、(イ)土地を占有している。

(三)  被告小野七造は(イ)建物に居住して(イ)土地を占有している。

(四)  (イ)地について原告の申立第一の(一)、第三各記載の各登記が存在する。

(五)  被告谷戸光公は昭和二六年一一月一七日から同土地を占有し、(ロ)建物をその地上に建築所有している。同日から昭和三六年九月三〇日迄の賃料相当損害金は三七万三、八四六円でありこれに対する訴状送達の日から完済迄年五分の割合による遅延損害金ならびに同年一〇月一日から明渡迄一ケ月金八、一二二円の割合による損害割合による損害金の支払を求める。

(六)  同土地について原告の申立第四の(一)記載の登記が存在する。

(七)  原告の申立第五記載の被告等は同項記載の(ロ)建物の部分を占有してそれぞれ(ロ)土地を占有している。

第二、請求原因の認否

(五) 記載の損害金の額を否認するほか、すべて認める。

第三、抗弁

(一)  被告小野竹之助は昭和二六年一〇月一〇日、原告の代理人である訴外新郊土地建物株式会社(以下新郊という)物納部長影山哲男から(イ)土地を代金三六万円余で買受けた。

(二)  被告谷戸光公は同月末原告の代理人新郊から同様に(ロ)土地を代金一五万円で買受けた。

(三)  仮に新郊に代理権がなかつたとしても、以下の事実から同人は原告の表見代理人である。

(イ)土地及び(ロ)土地は物納財産であるが、原告は新郊と昭和二三年一二月物納財産売払委託契約を結び、物納財産売払契約書第四条には受託者は国有財産売払に関する一切の手続を行う権限を有するものとされ、又原告は新郊に対し「大蔵省指定国有不動産処分委託取扱」なる看板を店頭に掲げることを許容したものである。よつて原告は代理権を与えた旨を表示したものである。原告と新郊との委託契約の一部は昭和二六年二月二〇日に変更され従来の売払委託が売払の仲立の委託と改められたが被告等はこの点について善意である。又、新郊は少なくとも契約成立後の売買、契約書作成、所有権移転登記事務を行う権限はあつたのであり、新郊にその点の代理権はあつたのであるから前記の事実を合せれば被告小野竹之助、同谷戸光公は新郊に土地売買の代理権ありと信ずべき正当の理由がある。

(四)  被告谷戸光公の右主張が理由なしとするも同人と原告の間に昭和三五年四月二〇日同土地を代金三六万一、三〇四円で払下げる契約が成立した。

第四、抗弁の認否

(一)  抗弁(一)および(二)に対して、陰山が物納部長であつたことは認める。新郊が原告の代理人であつたことは否認する。その余は不知。

(二)  同(三)に対して、表見代理人であることは否認する。原告主張の日時、物納財産売払委託契約を結んだことを認めるその余は否認する。(本件(イ)土地および(ロ)土地について売払委託契約を結んだ相手方は訴外都不動産株式会社であり、新郊には売払事務の委託もしていない。)

(三)  同(四)は否認する。(被告谷戸光公は原告に単なる申込みをしたのみである。)

(証拠)

原告指定代理人は甲第一号証乃至第一七号証(但し第四号証は一、二第一四号証、第一五号証は各一乃至三)を提出し、(但し甲第三号証は陰山哲男が偽造したものであると主張)証人小島哲吉、同横山正又、同伊賀輝吉、同小田拓三、同小林正治同陰山哲男の各証言を援用し、乙号各証の成立について第二号証は否認する、第五号証は不知、その余は認めると述べ、被告等代理人は乙第一号証乃至第五号証を提出し、証人陰山哲男の証言および被告谷戸操、同小野竹之助の各本人尋問の結果をそれぞれ援用し、甲号各証の成立について、甲第三号証は不知、その余は認めると述べた。

理由

請求原因については損害金の額を除いてすべて当事者間に争いがない。(被告小野竹之助、同小野七造、同住宅金融公庫は(イ)土地について原告の所有を争つているようにみえる、その抗弁と照し合わせれば原告に所有権のあつたことを争うものとは考えられない。)

そこで損害金の額に対する判断は暫くおいて被告の抗弁について考えることとする。

まず抗弁(一)、(二)について、新郊に原告の代理権があつたか否かを判断する。

本件土地が物納財産であり新郊は原告からその売払事務を委託された財産についてその手続を行つていたことは当時者間に争いがない。成立に争いのない甲第六号証、第九号証乃至一二号証によれば物納財産の売払を委託された業者はその財産の売買契約の締結及びその履行等売払に関する一切の手続を行い、しかもその、売払を財務局長等の名において行うこととされている等その語句によれば業者に処分権限があるようにみえるけれども成立に争いのない甲第七号証、第一四号証の一乃至三、第一五号証の一乃至三、証人小島、同横山、同小田の各証言によれば、物納財産の売払権限は局長にあり、局長の決裁がなければ売買は成立せず、むしろ業者は原告の手足として売払事務を行つていたことが認められるので、新郊が売払の権限を持つていたという被告の主張は理由がない。右認定に反する証拠はない。

そこで新郊の代理権についての抗弁(三)について判断する。前記認定に照せば原告が新郊に売払の代理権を与える旨の表示をしたことは本件全証拠によるも認められないが、成立に争いのない乙第一号証、証人小島、同陰山の各証言によれば、新郊は本件土地についてその売払手続をする権限があつたものであることを認めることができる。成立に争いない甲第一四号証、第一五号証の各一乃至三の都不動産の記載も右認定を覆すに足りず他にも右認定を覆すに足りる証拠はない。そして前記認定の原告、業者間の契約中の語句、成立に争いのない甲第八号証、同乙第一号証、証人横山、同小田、同陰山の各証言によつてみとめられる物納不動産の処理を促進するため原告が業者の手を借りざるを得なかつたという当時の特殊事情、証人陰山、同小島、同横山の各証言により認められる代金の受領迄業者がやつていたこと(証人小田の証言によれば原告は代金を受領せぬよう業者に注意したことは認められるが右認定を覆すには足りない。)、証人小島の証言によつて認められる決議書の作成を業者にまかせていたこと、同証人及び証人陰山の各証言によつて認められる土地の評価額も業者が主体となつて評価していたこと、証人小島、同横山、同陰山の各証言によつて認められる登記嘱託書も業者が原告の依頼をうけて作成していたこと、証人陰山、の証言および被告小野竹之助、同谷戸操の各本人尋問の結果により認められる新郊が店頭に掲示していた大蔵省指定国有財産処分委託取扱の看板およびそれに対し原告が何らの禁止処置を講じなかつた事実、証人陰山の証言によつてその真正な成立が認められる乙第五号証の新郊の肩書、証人小島、同横山同小田の各証言によつて認められる当時の業者使用の名刺の大蔵省に紛らはしい肩書についてそれを放任していた事実、以上の各事実によれば一般人は業者がその委託された物納財産を処分する権限があると信ずるのが当然であり、これを信じた被告小野竹之助、同谷戸光公の代理人操は信じるについて正当の理由があるものといわなければならない。成立に争いのない甲第一三号証、証人小田、同横山の各証言により認められる一般人の右誤解を防止するため昭和二六年業者は仲介のみを行うものであると原告が業者に対して説明を行なわなければならなかつた原告主張のとおりの事実も右認定を裏づけるものといえ、被告小野竹之助、同谷戸操の各本人尋問の結果によれば被告らがこの点について善意であつたことも認められる。従つて新郊は原告の表見代理人であり、この点について被告の主張は理由がある。以上各事実の認定を覆えすに足りる証拠はない。又、陰山が新郊の物納部長であつたことは当事者間に争いがないので証人陰山の証言と合せ陰山は物納財産売払について新郊を代表する権限があつたものと認定しうるところ、成立に争いのない乙第一号証、同甲第二号証、第四号証の一、二、第五号証、第一七号証に証人陰山の証言、及びそれによつて同人が偽造したことが認められる甲第三、号証、同乙第二号証、被告小野竹之助、同谷戸操の各本人尋問の結果を綜合すると被告小野竹之助は(イ)土地を同谷戸光公の代理人操は(ロ)土地をそれぞれ新郊からその主張どおりの代金で買受けたことが認められる。右認定に反する証拠はない。

従つて抗弁四については判断する迄もなく、被告等主張は理由があり原告の請求は理由がない。

よつて原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 滝田薫 前川鉄郎)

第一~四物件目録〈省略〉

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